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東京地方裁判所 平成元年(タ)303号 判決 1991年3月29日

原告 木戸美幸

被告 ビレンドラ・サラマンド

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  原告と被告とを離婚する。

三  訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

一  原告訴訟代理人は、主位的に<1>東京都○○区長に対する届出によってなされた原告と被告との婚姻が無効であることを確認する、<2>訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、予備的に<1>原告と被告とを離婚する、<2>訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、各請求原因を次のとおり述べた。

1  主位的請求の請求原因

(一)  戸籍上、仏教徒である原告(国籍日本、昭和35年3月31日生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦1957年3月21日生)が、東京都○○区長に対する昭和59年5月9日届出により婚姻(以下「本件婚姻」という。)した旨の記載がある。

(二)  エジプト法では異教徒間の婚姻を禁止し、これに反する婚姻を無効としてるところ、異教徒間の婚姻の禁止は双面的婚姻障害であると解されるので、被告の本国法上、異教徒間の婚姻が禁止されている以上、本件婚姻は無効というべきである。

(三)  よって、原告は、本件婚姻が無効であることの確認を求める。

2  予備的請求の請求原因

(一)  仏教徒である原告(国籍日本、昭和35年3月31日生)とイスラム教徒である被告(国籍エジプト、西暦1957年3月21日生)は、昭和59年5月9日、日本において、婚姻の届出をした。

(二)  原告と被告は、昭和59年8月下旬ころから、○○市において同居して生活するようになり、被告は、昭和59年11月下旬ころより、コンピューター関係の会社で働くようになったが、勤務態度が悪く、昭和60年3月下旬、解雇された。その後、被告は、他の会社に勤めたこともあつたが、同年4月下旬以降は定職につこうとせず、無為徒食の生活をするようになった。

(三)  更に、被告は、原告に対し、昭和60年6月20日夜半、夫婦間の口論がきっかけで激しく殴打する暴力を加えた。

そのため、原告は、被告と別居するに至った。

(四)  被告は、昭和61年8月ころ、エジプトに帰国したが、昭和63年5月16日、来日し、原告に対し、復縁を迫ったが、原告がこれを拒絶したため、同年6月18日、日本から出国した。

(五)  原告は現在被告との婚姻関係を継続する意思はない。

(六)  よって、原告は、日本民法770条1項5号に基づき、被告との離婚を求める。

二  被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

三  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  主位的請求について

1  原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第1号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第2号証、第3号証、第4号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、請求原因1(一)の事実を認めることができる。

2  婚姻の実質的成立要件の準拠法は、平成元年法律第27号付則第2項によって改正前の法例13条1項が適用され、各当事者の本国法となるが、イスラム教徒である被告に適用されるエジプトの法令によると(甲第5号証参照)、イスラム教徒である被告と仏教徒である原告との婚姻は、異教徒間の婚姻として禁止され、右婚姻は無効とされているものと解される。しかしながら、単に異教徒間の婚姻であるというだけの理由で、日本人である原告とエジプト人である被告の婚姻を無効とすることは、信教の自由、法の下の平等などを定め、保障する我が国の法体系のもとにおいては、公序良俗に反するものと解さざるを得ないので、本件においては、前記改正前の法例30条により前記イスラム教徒に適用されるエジプトの法令の適用を排除するのが相当である。

しかるところ、その他に本件婚姻が無効となるべき事情は認められないので、原告の主位的請求は理由がない。

二  予備的請求

1  前掲各証拠によると、請求原因2の各事実を認めることができる。

2  本件離婚については、法例16条ただし書により、日本の法律が準拠法として適用されるところ、右認定の事実によると、原告と被告間に日本民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があることは明らかである。

したがって、原告の予備的請求は理由がある。

三  よって、原告の本訴請求のうち、主位的請求は理由がないのでこれを棄却することとし、予備的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 尾方滋 裁判官 西口元 野島秀夫)

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